ポルシェ ボクスター/ケイマンはなぜ4気筒になり、また6気筒に戻った? 986から718まで29年の歴代モデルと、中古で選ぶポイント
この記事の要点
- 1996年の初代ボクスターは204PS・595万円。 1グレードだけで始まり、Sは3年後に足された
- ケイマンは9年遅れて2005年に登場。しかもSが先で、しかもボクスターより高かった(295PS・777万円)
- 2016年に水平対向4気筒ターボへ。名前も「718」になった。 2019年から4.0L 6気筒が一部に戻り、2025年10月末に生産終了
- 中古でいちばん大きい境目は2008年12月。 ここで7速PDKが入り、中間軸(IMS)が無くなった
※この記事は2026年9月21日時点の情報です。価格はいずれも発売当時の国内価格です。
ポルシェのボクスターとケイマンは、1996年から2025年まで、29年のあいだ作られたミッドシップのスポーツカーだ。2025年10月末に718シリーズの生産が終わり、現行のポルシェのカタログからは消えている。
この29年を、エンジンの気筒数だけで並べると、妙な形になる。 20年ずっと6気筒だったものが、2016年に4気筒になり、2019年から一部だけ6気筒に戻り、そして全部終わった。
ポルシェの中古は、同じ年式でも整備履歴で状態がまるで違う。買うほうに予算を寄せたいなら、先にいまの車がいくらになるかを知っておくと、無理なく届く世代が変わる。
店長、ボクスターとケイマンって、もう新車で買えないんですよね
そう。2025年の10月末で生産が終わったわ。後継はEVになると言われているけれど、発売はこれからよ
じゃあ、この記事って何の話なんですか?
29年ぶんの歴代モデルと、中古で買うときにどこを見るかよ。いま手に入れようと思ったら、全部中古なんだから
29年! そんなに続いてたんですか
ええ。しかも途中でエンジンの気筒数が6から4になって、また6に戻っているの。そこが面白いところね

29年を、気筒数だけで並べてみる。
まず、いちばん大きな流れから見る。
| 時期 | エンジン | 代表 |
|---|---|---|
| 1996〜2016年(20年) | 水平対向6気筒・自然吸気だけ | 986/987/981 |
| 2016年〜 | 水平対向4気筒ターボ(2.0L/2.5L) | 718のベース・S・GTS |
| 2019年〜 | 4.0L 6気筒自然吸気が一部に戻る | GT4/718スパイダー(420PS) |
| 2020年〜 | GTSにも4.0L 6気筒が戻る | GTS 4.0(400PS) |
| 2025年10月末 | 生産終了 | 718シリーズ全体 |
行って、戻ってきてるじゃないですか
そうなのよ。20年かけて当たり前になったものを、いったん手放して、数年後に一部だけ戻しているの
4気筒が評判悪かったんですか?
そこは、ポルシェが何も言っていないところよ。GTS 4.0を出したときの説明は『GTSらしい感情的な走り、直接的なレスポンスと日常性の両立』。不評だったから、とはどこにも書いていないわ
言わないですよね、たしかに
逆に、6気筒をやめた理由も、ポルシェは述べていないの。開発者への取材記事では『すでに決まっていた車体のパッケージにターボを収めるには4気筒が必要だった』と語られているけれど、それは媒体の取材であって、会社の発表ではないわ
ここは何度か出てくるので、先に線を引いておく。この記事では、ポルシェ自身が述べていることと、媒体や専門店が言っていることを分けて書く。

986(1996年)。1グレード、204PS、595万円。
初代ボクスターの国内カタログ上の発売は1996年10月。当時は2.5Lの水平対向6気筒で204PS、595万円の1グレードだけだった。
| 年 | グレード | 排気量 | 出力 | 導入時価格 |
|---|---|---|---|---|
| 1996年10月 | ボクスター | 2,480cc | 204PS | 595万円 |
| 1999年10月 | ボクスター | 2,687cc | 220PS | 610万円 |
| 1999年10月 | ボクスターS | 3,179cc | 252PS | 710万円 |
| 2002年9月 | ボクスター/S | — | 228PS/260PS | 550万円/690万円 |
595万円って、ポルシェにしては
そう、安いのよ。(911は現行で1,884万円からね)
3分の1以下……
もちろん当時と今の話だから、そのまま比べるものじゃないわ。でも、ポルシェの中でいちばん下に置かれた車として始まったのは確かね
3年後の1999年に3.2LのSが足されて、2グレードになった。ここから「素とS」の2本立てが、以後ずっと続く。
なお、2003年型で幌のリアウインドーがプラスチックから熱線入りガラスに変わっている。 中古で986を見るなら、ここは年式で判別できる分かりやすい差だ。
2005年、ケイマンが足された。しかもSが先だった。
ボクスターから9年遅れて、2005年8月にケイマンが登場する。屋根が固定されたクーペで、中身はボクスターと同じミッドシップだ。
ところが、出かたが変わっている。
| 年 | グレード | 排気量 | 出力 | 導入時価格 |
|---|---|---|---|---|
| 2004年12月 | ボクスター | 2,687cc | 240PS | 569万円 |
| 2004年12月 | ボクスターS | 3,179cc | 280PS | 686万円 |
| 2005年8月 | ケイマンS | 3,387cc | 295PS | 777万円 |
| 2006年8月 | ケイマン | 2,687cc | 245PS | 633万円 |
※価格はいずれもMT車の導入時価格
Sしかないんですか、最初
そう。ケイマンは、Sだけで始まったの。素のケイマンが出たのは1年後の2006年8月よ
なんで上から出したんでしょう
理由は説明されていないわ。分かるのは、登場したときのケイマンが、同じ時期のボクスターSより高くて、強かったということだけね。上の表のとおりよ
屋根が付いてるほうが高いんですか
このときは、そうだったの。ケイマンは『ボクスターの屋根付き』ではなく、上に足された車として出てきたのよ
ポルシェの企業史では、登場時のケイマンSを「ボクスターと911の間に位置するミッドエンジンスポーツカー」と説明している。位置づけの話としては、これがいちばんはっきりした表現だ。

2008年12月。中古でいちばん大きい境目は、ここにある。
歴代の中で、中古を買う人にとって実務的にいちばん重い変わり目は、世代の切り替わりではない。987の前期と後期のあいだにある。
2008年12月の後期型で、次の2つが変わった。
1. エンジン設計が新しくなり、従来型の中間軸(IMS)が無くなった
2. ティプトロニックSに代わって7速PDKが入った
中間軸って何ですか?
エンジンの中でカムシャフトを回すための軸よ。その軸のベアリングが壊れると、エンジンが大きく傷む。それで昔から話題になるところなの
こわい話じゃないですか
だからそこは後ろでちゃんとやるわ。いまは『2009年型以降には、この軸がそもそも無い』ということだけ持っておいて
ここで、よくある説明を2つ訂正しておく。どちらも、ネット上でよく見かける言い方だ。
| よく見る説明 | 実際 |
|---|---|
| 987後期は全部が直噴 | 違う。 3.4LのSは直噴だが、2.9Lのベース車はポート噴射 |
| 987前期は全部がM97エンジン | 違う。 年式と車種でM96系とM97系が混ざっている |
けっこう細かいですね
中古を買うときは、この細かさが全部お金になるのよ。年式の一覧だけ見て決めないことね
981(2012年)。ケイマンのほうが強くなった。
2012年の981で、車体が新しくなる。ポルシェが挙げた変化は「完全に新しい軽量ボディ」「刷新したシャシー」「新しい全自動ルーフ」「短いオーバーハング」。
数字で分かるのは次の2つだ。
- ホイールベースが2,415mmから2,475mmへ、60mm伸びた
- ステアリングが油圧式から電動機械式になった
そして、グレードの並びが変わる。
| 年 | グレード | 排気量 | 出力 | 導入時価格 |
|---|---|---|---|---|
| 2012年6月 | ボクスター/S | 2,706cc/3,436cc | 265PS/315PS | 584万円/727万円 |
| 2012年12月 | ケイマン/S | 2,706cc/3,436cc | 275PS/325PS | 612万円/773万円 |
| 2014年 | ケイマンGTS | 3,436cc | 340PS | 915万円 |
| 2015年2月 | ケイマンGT4 | 3,799cc | 385PS | 1,064万円 |
ケイマンのほうが、10PSずつ高いですね
よく見つけたわね。981では、同じエンジンでもケイマンのほうが10PS上に振られているの。屋根が固定されているぶん車体が硬い、という考え方でしょうね
じゃあ、屋根が高くて強いのは変わらないままなんですか
ええ。ここまではずっとそうよ

2015年、ケイマンGT4。911のエンジンが載った。
981の途中で、それまでの並びから外れる1台が出る。ケイマンGT4だ。
3.8Lの水平対向6気筒で385PS、6速MTのみ、1,064万円。このエンジンは911(991型)のGT3系から来ている。
ケイマンに911のエンジンですか!
そう。それまで『ケイマンは911の下』という並びだったところに、上の車の心臓を持ってきたの
ポルシェ的には、よかったんですかそれ
そこも会社は説明していないわね。でも、この1台が出たあと、ケイマンとボクスターに4.0Lの6気筒が載るのが当たり前になっていくのは事実よ
同じ2015年には、ボクスター スパイダー(3.8L・375PS・6速MT)も出ている。

2016年、6気筒が4気筒になった。名前も「718」になった。
そして2016年、いちばん大きな変化が来る。
2.0Lと2.5Lの水平対向4気筒ターボへ。 名前の頭に「718」が付いた。
| 年 | グレード | エンジン | 出力 | 導入時価格 |
|---|---|---|---|---|
| 2016年2月 | 718ボクスター/S | 2.0L/2.5L 4気筒ターボ | 300PS/350PS | 658万円/852万円 |
| 2016年4月 | 718ケイマン/S | 2.0L/2.5L 4気筒ターボ | 300PS/350PS | 619万円/813万円 |
| 2017年 | 718ケイマンGTS | 2.5L 4気筒ターボ | 365PS | 993万円 |
あれ、ケイマンのほうが安くなってます
そこよ。718世代で、ケイマンとボクスターの出力が同じになって、屋根が付いているケイマンのほうが安くなったの。2005年とは完全に逆ね
11年かけて、立場が入れ替わったんですか
並べるとそう見えるわ。ただし『格下げした』とポルシェが言ったわけではないの。オープンのほうが屋根の機構ぶん高い、と考えるほうが自然でしょうね
4気筒にして挙げられた成果は、はっきりしている。従来型より35PSの出力向上、トルクの増大、燃料消費を最大13%低減。 数字だけ見れば、順当な進化だ。

「718」は、どこから来た名前なのか。
718という数字は、1950〜60年代のミッドシップのレーシングカー「718 RSKスパイダー」「718 GTRクーペ」に由来する。
そして、当時の718も4気筒エンジンを積んでいた。
4気筒にしたから、4気筒の車の名前を持ってきたってことですか
そういうことになるわね。名前で理由を説明したの
じゃあ、6気筒が戻ってきたときは……
名前は718のままよ。6気筒になったモデルにも、718は付いたままなの
理由のほうだけ先にいなくなったじゃないですか
面白いでしょう。ここは並べてみて初めて見えるところね
2019年から2020年。6気筒が、一部に戻ってきた。
4気筒になって3年後、4.0Lの水平対向6気筒自然吸気が戻ってくる。
| 年 | グレード | エンジン | 出力 | ミッション |
|---|---|---|---|---|
| 2019年 | 718ケイマンGT4/718スパイダー | 4.0L 6気筒NA | 420PS | 当初6速MT(2020年にPDK追加) |
| 2020年 | 718 GTS 4.0 | 4.0L 6気筒NA | 400PS | 当初6速MT(2020年にPDK追加) |
| 2021年 | 718ケイマンGT4 RS | 4.0L 6気筒NA | 500PS | PDKのみ |
| 2023年 | 718スパイダーRS | 4.0L 6気筒NA | 500PS | PDKのみ |
GT4 RSとスパイダーRSは、MTが選べないんですね
ええ。いちばん尖った2台では、MTが選べなくなったわ
4気筒と6気筒が、どう受け止められたか。ここは媒体の試乗記がはっきり分かれている。3つに分けると、こうなる。
1. 性能・実用トルク・燃費は、4気筒ターボで明確に進歩した(レスポンス、低回転のトルク、ターボラグの少なさが評価されている)
2. 音と回転の感じについては、6気筒を支持する層から賛否があった(旧6気筒の澄んだ高回転音が薄れ、回転域によっては濁って耳につく、という指摘)
3. 「4気筒だから遅い」という評価ではない
GTS 4.0の試乗記では、4気筒のGTSも速く強力だったと認めたうえで、自然吸気4.0Lの直接的なレスポンスと回転の上がりかた、音が、ミッドシップのポルシェに期待する楽しさを取り戻したと書かれている。
戻ってきて喜ばれてるんですね
評価としてはね。ただ『4気筒が売れなかったから戻した』と書いている媒体もあるけれど、それは媒体側の読みよ。ポルシェの説明ではないわ

2025年10月、全部終わった。
718シリーズは2025年10月末に生産を終えた。 ポルシェの年次レポートに記載がある。日本の公式サイトでも注文はできない。
次のボクスターとケイマンは、どうなるんですか
EVになると言われているけれど、まだ発売されていないわ。日本での時期も価格も、公式には出ていない
じゃあ、この29年は
6気筒で始まって、4気筒になって、6気筒が戻って、そしてエンジンが無くなる。そう並べたくなるけれど、次の車が出るまでは、そこまでは書けないわね
ミッドシップは、何のためのものか。
歴代を通して変わらなかったのが、エンジンを車体の中央付近に置くレイアウトだ。ポルシェが挙げている利点は4つ。
- 車体の中央付近にエンジンを置いて、重量配分を整える
- 重さを中心に集めて、俊敏な方向転換と高いコーナリング性能を得る
- 前と後ろの両方に荷室を確保できる
- 低いシルエットとサイドインテークという、外観の特徴につながる
911との関係については、開発者の言葉が残っている。1990年代にボクスターをミッドシップにした理由の一つが、リアエンジンの911と明確に区別することだった。
じゃあ、『安い911』っていう言い方は
ポルシェは一度もそう言っていないわ。911はリアエンジンで、こちらはミッドシップ。同じ車の大きさ違いではなく、狙いがそもそも別なのよ
値段の順番で並べちゃうと、見落とすところですね
そうなの。現行のポルシェを価格順に並べた記事もあるけれど、並びの上下と、車の狙いは別の話よ
走りは、どう評価されている?
世代ごとに、日本語の試乗記がどう書いているかを並べる。歴代を通して読むと、評価の軸がほとんど変わっていないのが分かる。
| 世代 | 書かれていること |
|---|---|
| 986 | 944などフロントにエンジンを積む車に対して、水平対向エンジンとミッドシップの配置で、より強く「ポルシェらしい」感覚を持っていた |
| 987 | ボディと操縦性の進化が高く評価されている。見出しは「兄貴似、もしくは兄貴以上」。911に似せただけでなく、ミッドシップらしい回頭性とバランスが評価の中心 |
| 987後期 | PDKと新しいエンジンによる、速さ・効率・洗練の向上 |
| 981 | 6速MTの981ボクスターを「最も楽しめるポルシェ」と評価。絶対的な速さではなく、公道で扱える軽快さ、開けたときの音、ミッドシップの一体感 |
| 982(4気筒ターボ) | レスポンス、低回転のトルク、速さ、ターボラグの少なさは評価。一方で音は賛否(旧6気筒の澄んだ高回転音が薄れ、回転域によって濁って耳につく、という指摘) |
| 982(4.0L 6気筒) | 4気筒のGTSも速く強力だったと認めたうえで、自然吸気4.0Lの直接的なレスポンス、回転の上がりかた、音が、ミッドシップのポルシェに期待する楽しさを取り戻した |
986から981まで、同じことを言われてますね
そこなのよ。『速い』ではなく『バランスが良い』『公道で扱える』。29年ずっとこの言われかたなの
982だけ、書きぶりが変わってます
4気筒になったときだけ、音のところで評価が割れたわ。ただし遅いとは誰も書いていないの。速さと音は別の話ね
じゃあ、試乗しないと決められないですね
音の好みは、自分の耳で確かめるしかないわ。中古で買うなら、そこはむしろ楽なところよ。もう現車があるんだから
ここから中古の話。まず2009年型で線を引く。
ここまでが歴代の流れ。ここからは、実際に中古で買うときにどこを見るかを書く。
いちばん分かりやすい線は、2008年12月の後期型(2009年型)だ。
| 2008年11月まで | 2008年12月以降 | |
|---|---|---|
| エンジン | M96/M97系(中間軸あり) | MA1/9A1系(中間軸なし) |
| 自動変速機 | ティプトロニックS | 7速PDK |
ここより後なら安心、ってことですか
そこまでは言えないわ。『中間軸のベアリングという古典的な心配ごとは、そもそも対象外になる』というだけよ。エンジンの状態を見なくていいわけじゃないの
IMSベアリングの話は、どこまでが確かなのか。
ポルシェの中古を調べると必ず出てくる話なので、確かなところと、そうでないところを分ける。
公的な記録として残っていること:
米国で Eisen v. Porsche Cars North America という集団訴訟の和解が成立し、2014年1月30日に最終承認された。対象は中間軸を搭載した2001〜2005モデルイヤーの一部のボクスターで、製造期間とVINによる限定がある。中間軸に起因するエンジン損傷について、条件付きの費用補償制度が設けられた。
ただし、これは次のどれでもない。
- 日本の車を直接対象とする保証
- 986・987前期の全車の欠陥をポルシェが認めた判決
- 和解の対象外の年式について、安全性を保証する資料
アメリカの話なんですね
そこは正確に受け取る必要があるわ。『ポルシェが欠陥を認めた』という書き方をしている記事もあるけれど、認めた範囲はそこまで広くないの
部品を売っている専門業者が示している年式の区分:
| 年式 | ベアリングの仕様 |
|---|---|
| 1997〜1999年 | 複列 |
| 2000〜2001年 | 複列と単列が混在 |
| 2002〜2005年 | 主に小径の単列(ここがいちばん問題視される) |
| 2005年後半〜2008年 | 大径。エンジンを分解しないと交換できない |
| 2009年以降 | 中間軸そのものが無い |
2005年、またぎますね
そこが厄介なところよ。2005年は混ざっているから、年式だけでは決まらない。エンジン番号と現物を見る必要があるの
なお、この区分を出しているのは対策部品を販売している業者だ。技術資料として有用だが、メーカーが公表した発生率ではない。 買う側としては「2000〜2005年ごろの個体は、整備履歴と現物をとくに丁寧に見る」という使い方が現実的だろう。
ボアスコアリングは、現物で6つ見る。
もう一つよく挙がるのが、シリンダー内壁の傷(ボアスコアリング)だ。
ポルシェは、これを986・987全般に共通する欠陥だとは認めていない。 年式別の発生率も出ていない。エンジン再生を手がける業者が重点的に挙げているのは、次の2つだ。
- 2006〜2008年 ケイマンSの3.4L(M97.21)
- 2007〜2008年 ボクスターSの3.4L(M97.22)
現車を見るときの順序として、業者の資料が挙げているのは次のとおり。
1. 冷間始動のとき、片側だけ煙が出ていないか
2. カタカタという打音がしないか
3. オイルの減りが早くないか
4. 左右の排気口で、煤の付き方に差がないか
5. オイルフィルターの中に金属片が無いか
6. 疑わしければ、シリンダーの下側を内視鏡(ボアスコープ)で見る
素人でも見られますか、これ
煙と煤とオイルの減りなら見られるわ。内視鏡は業者に頼むものね。ただ、『中を見せてください』と言える店かどうかで、その店の姿勢が分かるとは言えるわ
そっちのほうが役に立つ情報かもしれません

981・982にも、メーカーの整備資料がある。
「新しいほうなら何も無い」わけではない。リコールではないが、ポルシェの技術情報として出ている事例が、981と982の両方にある。
| 世代 | 内容 |
|---|---|
| 981(2013〜2016年) | ドアトリム上面の変形 |
| 982 | 冷却水漏れ、エンジン過熱の警告、ウォーターポンプの負圧系統への冷却水の侵入 |
| 982 | ラジエーターファンの間欠的な不作動 |
これ、全部の車に起きるんですか
そうじゃないわ。顧客から申し出があったときの修理手順として出ているもので、どのくらいの割合で起きるかは分からないの。『こういう事例が実際にあった』という以上のことは言えないわね
専門店が981・982の購入時に挙げる確認項目は、ウォーターポンプ、冷却系、エンジンマウント、内装の浮き、PDKの整備歴。冷却まわりが重なっているので、水温の警告履歴は見せてもらうといい。
ボクスターの幌は、年式より状態で見る。
オープンのボクスターには、幌という消耗品が付いてくる。
はっきりした世代の差は一つ。986は2003年型で、リアウインドーがプラスチックから熱線入りガラスに変わった。
見るところは次のとおり。
- 幌布の縮み、折れ、擦れ、縫い目のほつれ
- リアウインドーの周囲が剥がれていないか
- 左右が均等に開閉するか(リンク、ボールジョイント、油圧の機構、マイクロスイッチ)
- 排水口が詰まっていないか(詰まると室内や制御ユニットへ水が回る)
- ウェザーストリップからの雨漏り
何年で交換、みたいな目安はないんですか
ポルシェは交換の周期を公表していないわ。保管の仕方と開け閉めの回数で差が大きいから、年式で決めずに現物と修理履歴を見なさい、ということね
MTとPDK、それぞれ見るところが違う。
ポルシェ自身の986の中古車解説では、MT車のほうが愛好家から求められやすく、旧5速ティプトロニックSは現代のPDKほど俊敏ではないとされている。
ただし、「どの世代でもMTなら高い」という日本市場の統計は見当たらない。 GTSやGT4といったグレード、限定車、右ハンドルか左ハンドルか、色、整備履歴の影響のほうが大きいからだ。
| 見るところ | |
|---|---|
| MT | クラッチの残量、デュアルマスフライホイール、シンクロ、シフトケーブル |
| PDK | 変速ショック、発進時の振動、警告の履歴、フルードの整備歴 |
- PDKの内部修理は専門の設備が要る。 正規系ではユニット交換の判断になりやすいと専門店が説明している
載せ替えになったら、そうとうかかりますね
だからPDK車は、整備の記録がある個体を選びなさい。記録が無いものは、その安さに理由があると考えるほうがいいわ
世代別に、どれを選ぶか。
ここまでを、選ぶ側から並べ直す。
| 世代 | 向いている人 | 気をつけるところ |
|---|---|---|
| 986(1996〜2004) | いちばん安く入りたい。90年代のポルシェの雰囲気がほしい | 中間軸の話の対象年式が含まれる。幌も古い。整備歴のある個体だけを見る |
| 987前期(2004〜2008) | 6気筒の自然吸気を、手の届く価格で | 同上。M96系とM97系が混在する |
| 987後期(2008年12月〜2012) | ⭐ 中間軸の心配を外したうえで、6気筒とPDKがほしい | ボアスコアリングの報告が多い3.4Lを含む年式がある |
| 981(2012〜2016) | 6気筒自然吸気の完成形。MTの評価がとくに高い | ドアトリムの変形事例。電動ステアリングの好みが分かれる |
| 982/718 4気筒(2016〜) | 速さと実用性、燃費で選ぶ | 冷却まわりの技術情報がある。音の好みは試乗で確かめる |
| 982/718 4.0L(2019〜) | 6気筒自然吸気の最終形がほしい | 台数が少なく、価格は高い側 |
流通のしかたにも傾向がある。ボクスターは987が比較的探しやすく、986も極端に枯れてはいない。 718世代は、ボクスターよりケイマンのほうが多く出ている。
ひとつ選ぶとしたら、どれですか
中古で初めてのポルシェなら、987の後期ね。中間軸の話を外せて、6気筒の自然吸気で、PDKも選べる。心配ごとが一段減ったところだから
店長は?
私は981のMTよ。試乗記で『最も楽しめるポルシェ』と書かれた組み合わせなんだから、一度は乗ってみたいじゃない
買い替えの総額を決めるのは、いまの車の売値。
ポルシェの中古は、同じ世代でも整備履歴で価格が大きく動く。そして整備履歴のある個体は、その分だけ高い。
その差を埋めるのが、いま乗っている車の売値だ。中古車店での下取りに出すつもりでも、先に買取の相場を見ておけば、提示された下取り額が妥当かどうかを自分で判断できる。
金額だけで比べるなら、下取りより買取のほうが高くなる。 人気の車種なら数十万円の差が付くこともある。その数十万円は、987の前期と後期を分ける差だったり、整備記録のある個体とない個体を分ける差だったりする。
下取りって、そんなに違うものなんですか
下取りは新車の値引きとまとめて話が進むから、車そのものの値段が見えにくいの。買取はその車だけの値段が出るわ
じゃあ買取のほうがいいんですか
金額だけならそうね。でも下取りにも利点はあるわ。納車まで乗っていられるし、手続きが一箇所で済む。先に買取の相場を知ったうえで、どちらにするかを決めればいいのよ
順番の話なんですね
そう。知らないまま下取りに出すのがいちばんもったいないの。値が付かないと思っていた車に、思わぬ金額が出ることもあるわ
まだポルシェを買うって決めてなくても、調べていいんですか?
いいのよ。値段を見るだけなら、お金はかからないわ。売ると決めてから調べるものじゃないの。いくらになるかを知ってから、どの世代に手が届くかを考えればいいんだから
📌 まとめ
- 29年を気筒数で並べると、6気筒20年 → 4気筒ターボ → 4.0L 6気筒が一部復活 → 2025年10月末に生産終了、という形になる
- 「718」の名前は4気筒の由来を持つが、6気筒が戻ってからも残った
- 中古でいちばん大きい境目は2008年12月。中間軸が無くなり、7速PDKが入った
- 初めての1台なら987の後期。 MTを楽しみたいなら981
- 中古の総額を動かすのはいま乗っている車の売値。下取りに出す前に買取の相場を見ておく
よくある質問
ボクスターとケイマン、中身は同じですか?
ミッドシップのレイアウトとエンジンは共通で、屋根が違います。 ただし世代によって出力の振り分けが違いました。981ではケイマンのほうが10PS高く(275PS対265PS、325PS対315PS)、718世代では同じ出力になっています。
なぜ「718」という名前が付いたのですか?
1950〜60年代のミッドシップのレーシングカー「718 RSKスパイダー」「718 GTRクーペ」に由来します。 当時の718も4気筒エンジンを積んでいました。なお、2019年以降に6気筒が戻ってからも、718という名前は付いたままです。
4気筒の718は、6気筒より遅いのですか?
いいえ。 4気筒化では従来型より35PSの出力向上とトルクの増大が挙げられており、試乗記でもレスポンスと低回転のトルクは評価されています。賛否が分かれたのは音と回転の感じで、速さの話ではありません。
中古で、いちばん避けたほうがいい年式はありますか?
年式だけで決められません。 よく問題視されるのは2000〜2005年ごろの中間軸の仕様ですが、2005年は仕様が混在しているため、エンジン番号と現物の確認が必要です。 年式より先に、整備の記録が残っているかを見てください。
ボクスターの幌は、何年で交換になりますか?
ポルシェは幌の交換周期を公表していません。 保管環境と開け閉めの回数で差が大きいため、年式ではなく現物の状態と修理履歴で判断してください。 左右が均等に開くか、排水口が詰まっていないかを見ます。
新しいボクスター/ケイマンは出ますか?
718シリーズは2025年10月末に生産を終えています。 後継はEVになると言われていますが、日本での発売時期も価格も、ポルシェから発表されていません。
この記事で参照した情報源(20件)
- Porsche Newsroom|25 years of the Boxster
- ポルシェジャパン|718ケイマン
- ポルシェジャパン|718ボクスター
- Porsche Newsroom|718 GTS 4.0
- Porsche Newsroom|Cayman GT4(2015)
- Porsche Christophorus|914 and 718
- Porsche Classic|986
- Porsche Newsroom|986 modern classic
- GAZOO|ボクスター(986)カタログ
- GAZOO|ケイマン(987)カタログ
- GAZOO|ケイマン(981)カタログ
- Car Watch|981ボクスター発表
- Car Watch|718ボクスター試乗
- webCG|981ボクスター試乗
- webCG|718ケイマンGTS 4.0試乗
- 米連邦裁判所判決資料|Eisen v. Porsche Cars North America
- Porsche Technical Information 2314(981ドアトリム)
- Porsche Technical Information 147/17(982冷却系)
- 中古車オークション相場(2026年2月)
- 中古車市場レポート(2026年7月)
※記事内の画像はイメージです。細部は実際のものと異なる場合があります。
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